1 題材の目標   2 題材の評価規準 3 主な学習内容と評価 アドバイス 資料

① 描画材について ○ 鉛筆とシャープペンシル 自分の考えを文字にする筆記具として、最もよく用いられる鉛筆とシャープペンシルは、描画材としても優れた性質をもっている。
自分の表現に適した描画材を選択できるように、それぞれの特徴をおさえておきたい。
鉛筆は、9H~9B位までと種類が大変豊富である。デッサンするときは、芯が太めなので長目に削りだして線の幅を変えるなど、タッチに変化をつけることができる。折れにくいので勢いのある強い調子で表すものに適している。

シャープペンシルの芯の濃さは2H~2B位で、太さは0.3~1.2ミリと細めだか、線の太さが均一なので文字が綺麗に揃って見える。細密な描写に適している。
○ 消しゴム 通常、鉛筆は描くもの、消しゴムは間違ったところを消すものという概念がある。ここでは、鉛筆は実態を描くもの、消しゴムは光を描くものというとらえ方で用いると新鮮である。
② 見ることから、表現することへ ○ 普段の見え方 普段私たちは、主に視聴覚の情報を手掛かりにして生活をしている。
しかし、得られた情報をすべて処理しているのではなく、生きている上で最も重要だと思われる情報を優先させ、その他の多くの情報は無視するようになっているらしい。
その物の実体を見ているのではなく、その物の特徴や印象を見ているといえる。
○ 意識して見る これまで、何度も見ている筈なのに思い出して描こうとしても思い出せない。自分の観察力のなさを卑下したくなるときである。
普段私たちは、情報を素早く処理するために特徴で物を見るようになっていると先に述べた。
見ているはずなのに思い出せないのは、そのことが重要な情報として扱われていないからで、必要な情報だと意識し見ることによって、初めて見えてくるようになるのである。
普段は、そんな見方で生活していないので、思い出せなくて当然である。
○ 記憶を定着させる もう一つ、思い出すための重要な要素として記憶の定着度がある。
意識して見えるようになったものを、今度はいつでも使えるように記憶しておく必要がある。
脳細胞のシナプスの連結が太くなれば、記憶も強くなると云われるが、そのためにはなるべくたくさんの感覚を動員して、繰り返し学習することが効果的だと云われている。
そういう意味では、絵を描くという行為は記憶のための非常に有効な手段であるといえる。
○ 普段の見え方に戻す 意識して見ることができるようになると、次に「見えたものを、どこまで描いたらよいか」という疑問が起こってくる。
しっかりと観察できるようになると、今度は細かいところまで見えすぎて収集がつかなくなることがある。
例えば、樹皮が鱗のようにびっしりと覆っている場合など、そのまま写し取ると壁紙の模様のようになってしまう。
情報が多すぎるので、普段見ている印象から遠のいてしまうからで、普段見ている状態に戻してやる必要がある。
○ 特徴を見つける「薄目見」と「ぱっと見」 私たちは普段、重要な情報を優先してその特徴や印象で物をとらえていると述べた。
これを描写に当てはめてみると、特徴のあるところを描き、その他のところは描かないということになる。
生徒には、ものの特徴を見つける方法として、「薄目見」や「ぱっと見」を勧めている。
「薄目見」は、薄目を開けてぼんやりと見る方法である。そうすると、特徴的な物は見え残り、そうでない物は判別しにくくなる。
「ぱっと見」は、違うところを見ておいて短時間だけ視線を戻す方法である。これは、瞬間的に印象をとらえようとする本来の性質を利用したものである。
まだ形が見えているものは、実際よりも2倍以上はっきりと描き、形がなくなったものは、実際よりも随分弱く、場合によってはすべて省いてしまう。
○ 共通言語に翻訳する 特徴を見つけることができたら、次にそれをだれにでもわかる言葉に翻訳する必要がある。
このことを写実的描写に当てはめると、だれにでもそう見えるように描くということになる。
自然の一部として存在する私たちは、自然の法則性に基づいた色や形を一つの共通言語として認識できると考えられる。
例えば、平面での写実的描写では、透視図法や影を付けるなどの技法を用いて立体的に錯覚させる言語を用いることになる。
これまでは、それらの技法の習得に重きを置かれた学習指導がされてきたが、何のためにそれを用いるのかという目的を明確にすることが、最も重要であると考えている。
○ 写真とイラスト・絵の違い 写真を見て絵を描く手法は、今日ではよく用いられるが、写真をそのまま模写するとどこか違和感のある絵になる。普段見えていないものもすべて描かれてしまうからである。
写真で見るよりも、イラストや絵の方が実物に近い印象を受けることがある。
それは、作者が特徴を強調したり、不必要な情報を省略したりすることによって、表したいことをより明確にしているからであろう。
似顔絵や漫画は、その顕著な例である。
絵を描くには、観察などの方法で自分が描けるようになるまで物の形を把握する必要があるが、実際に描くときには強調や省略を用いて普段見ている状態に戻す必要があるということである。
○ 自然には輪郭線はない 物の形を画面に表すとき、大抵は輪郭を手掛かりにする。特に日本の漫画表現に見られるように、線描で物の特徴や動きを端的にとらえて表す手法が古くから用いられ、輪郭の強弱や微妙な変化で描き分けることに卓越した表現技術がある。それは私たち現代の日本人も受け継いでいるように思う。特に、毛筆では多彩な表現が可能である。
P37のアドバイス④で述べたように、自然界にあるものには輪郭があるのではなく、物と物との境目があるだけである。素早く物の形をとらえたり、強調して形を表すために、輪郭に置き換えているのである。輪郭でものを表すということは、一度ものを平面的に解釈した結果と考えることができる。物を立体的に表すために、陰影をつけたり透視図法を用いたりするが、既に輪郭で解釈したものにそれらの技法を当てはめただけでは、塗り絵のような表現になってしまう。陰影によって立体を解釈する西洋画の技法では、輪郭はあくまで面の消失線としてとらえる必要がある。
全く輪郭を線で表さない描写技法を経験させると、面で物をとらえるということが理解できるようになるのではないだろうか。輪郭線で物の形を表すことに慣れすぎてしまわないようにさせたい。
○ 光の方向は自分で決める 屋外での写生は変化に富んでいる。太陽は1時間で15度程傾く。50分の授業の間でもその変化は十分に感じられるほどである。それに週2時間は同じ時間帯になるとは限らない。1時間は朝9時の1時間目、もう1時間は昼13時を過ぎる5時間目という場合もある。そのため、光の当たる方向を自分で仮定する必要がある。室内で静物画を描くときは、北側からの安定した光がモチーフに当たるようにするのが普通である。
屋外での写生で最も重要なのは天候で、雨や風、寒暖の差も注意しなければならない。中止の事態に備えて、雨天用の課題を用意しておく必要がある。
○ 枝が分かれるとき、幹も傾く 私は、樹木をよく観察できているかを見極めるために、枝分かれしている部分に着目する。思い込みや概念で描いている場合は、棒のようにまっすぐな幹から枝が生えているように描かれている。
人間の場合を考えてみると、左右いずれかの腕に重い物を持って立つと、体は持った反対側に傾く。体のバランスを保つためである。樹木も同じで、枝が伸びて葉が茂ると重くなるので、バランスを保つために、幹が反対方向に少し傾いて伸びる。これは葉脈でも同じで、必ず分かれるときに少し傾く。観察していると、太さとも関係があるようで、細いほど角度が急になる。このように、地球の自然の中にあるものは、すべてが重力の影響を受け、形作られている。一つそのことが意識できると、他のものにも当てはめることができるようになる。
③ 描き方について ○ どこから描くか、何を主役にするか 限られた紙面に、何をどう配置したらよいのか迷う生徒がいる。これは限られた紙面だから起こることで、大きな紙面に思うままに描いて後で気に入った場所を切り取れたらいいのではないかと思うときがある。
実際に、私たちも絵を額に入れるとき、どうしても気に入らない部分があると切り捨てる。しかし、そんなこともできないので、まず一番気に入ったものを決めて、それが最もよく映えると思うところに配置してみたらどうかと、助言することにしている。
○ 線の集合で面を作る 鉛筆やシャープペンシルの描画材では、一度で描ける最大の形は線である。立体を面でとらえる方法を用いる場合、面を作っていく必要がある。
一般的には線を規則的に並べて面を表現していくことになる。線と線との間隔や、長さ、方向、集まり具合などの違いによって様々な表情を作ることができる。
幾つか練習のパターンがあるが、実践でつかみ取っていくことが望ましいと思う。失敗を恐れずどんどん試して描いているうちに、「そう見える」描き方が偶然できることがある。
その偶然と出会えるまで根気よく試していくことが遠回りのようで、自分の表現を探す最も近道であり、多くの職人や芸術家はそうしていると思われる。学校のように効率的な学習を求められる場合は、結果としての答えを示す方法が用いられることが多くなりがちである。
しかし、多様な表現の可能性と違いの良さを認めていきたい教科においては、できるだけ一つの答えを示す方法ではなく、それぞれが自分の答えを見つけ出せるような手引きやガイド、ヒントをちりばめる指導方法が適していると考えている。
○ 樹木の下部をしっかりと描く 樹木は、地上で見えている部分は半分である。地下には、幹や枝と同じ大きさ位に広がっている根があるといわれる。普段それらを意識することは少ないが、大風が吹いて大きな樹木が倒れると、根の一部が地表に姿を現す。
倒れる木の大半は、地面が緩かったり、岩が多かったりして上部の幹や枝と同じくらいの根が十分に張れなかったのである。地上に見えるものと同じ位のものが地下にある様子を想像するのも楽しい。
地表近くの幹は、その上の幹を支えている。下部ほど重さに耐える太さや構造が必要である。こぶやひずみ、枝分かれなど、絵になりやすいものを主題にすると、このことが見過ごされがちになる。地下の値の形をイメージしながら、それとつながる下部を力強く描くことを助言したい。
○ 樹皮や苔、木の葉などの群れの描き方 集団や群れているように見せたいときは、その集団の端や最も特徴的な箇所のみを詳しく描き、その他の部分は固まりとして表現するようにすると、その他の部分も同じものでできていると解釈してくれる。
④ 虫との戦い 実際の授業で困るのが、虫である。桜や大きな木には毛虫が多い。画用紙や頭の上にぽたりと落ちて、悲鳴が聞こえることもよくある。何よりも困るのが秋の蚊である。特に女子はスカートが制服なので足をねらわれる。予防のため、虫よけスプレーや蚊取り線香などを準備しているが、自然が相手なのである程度の覚悟はしなければならない。
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